佐治の辰巳峠

鳥取市内から佐治町経由辰巳峠から恩原高原まで

最後の親孝行?水曜日のドライブ

もちろんここだけではないけれど、鳥取にはおすすめのドライブコースがいくつもある。父の具合が悪くなって、なかなかご飯が食べられないから、お惣代やお弁当を買って、どこか景色のいいところへ連れて行ってあげたら、食欲が出るのではないかと、母と思い立って始めたのが、水曜日の定休日のドライブだった。

今考えれば、いつも忙しいという名目のもとに、休日を両親のために使うなどとは縁遠い生活であった。結局、ついに、両親にロクに感謝も伝えられないまま、立て続けに二人を天国に見送ることになるなんて、想像もしていなかった。そのうちゆっくりと、旅行に出かけて、ウンと両親に親孝行をしてあげよう、そのうち是非、いつかきっと、必ず絶対に、とは思っていたが、その「いつか」は、永遠に来なかった。私ができたことといえば、父の認知症が、かなり進行してきてからのこの水曜日のドライブくらいなものであった。

絶対に休日を仕事を入れないと誓って

夜や昼の区別がつかなくなって、1日のほとんどを寝て過ごすことになってしまった、あの頭脳明晰の父と、その介護で、疲れ果てている母を、労う目的もあって、水曜日は、ある時から、例えお客さんであっても、絶対に仕事で休日を潰さないと心に誓った。どんなことがあっても、どんなに疲れていても、絶対に仕事を入れるのをやめようと決意してから、晴れの日も、雨が降っても、両親を乗せて、鳥取の道なき道を、好んで選びながら、この道は一体どこに続くのかしらと、不安になるくらいの細い道を行き着くところまで、行って見たりした。思えば、一年の間に、鳥取近郊の随分いろんなところをドライブしたと思う。そのドライブに行き続けた1年間だけが、今思えば、私のほんのささやかな親孝行となった。この貴重なドライブを、私は生涯忘れることはないだろう。美しい景色とともに永遠に胸に刻み付け、わずかな親孝行しかできなかった後悔と共に、墓場まで持っていくことになると思う。

わずか1年間のドライブは、一生の宝物

ドライブを初めて、その後、わずか1年のほどたった頃、2016年の夏に父が危篤になり入院した。その直後に、オランダに永住しようとしていた4つ年下の弟が病気になっていることがわかり、オランダに迎えに行き、それから、再度オランダに旅立とうとする弟を警察の力を借りて、入院させることになった。そして娘と私の大切な家族でもあった、大事な犬のシロが亡くなり、父が逝き、その3ヶ月後に母が逝った。あっという間の出来事だった。2年は泣き暮らした。今も時々泣く。折に触れて悲しくなって、泣く。そして、きっといつまでも泣くだろう。いなくて寂しいから、残念だから。

実は私が一番楽しみにしていた?

車の運転ができない、両親にとっても、ドライブは、本当に特別な時間であったに違いない。父のためにドライブに行くというよりは、母のためでもあったし、母は格別楽しみにしていた。花の好きな母は、季節折々の花が咲いたり、紅葉したりする様を眺めては、歓声をあげた。夢中になって、道無き道で、車を止めては、枝などをほんの少し頂戴したりするのをとても楽しみにしていた。とはいうものの、実は、一番楽しみにしていたのは、鳥取に帰ってきてから、鳥取のどこにも出かけたことのなかった、鳥取を知らない私だったかもしれなかった。3人で共有する美しい鳥取の風景はどこも格別の美しさであった。父が老人性のうつ状態の日や、微熱があったりして、ドライブに行けない日は、母も残念がったが、私自身も本当に残念だった。だからと言って、ひとりでいて楽しいと言うものでもないし、父を置いて、いくわけにもいかなかった。シロが元気だった頃は、彼を車に積んで一緒に行ったこともあったが、それはそれで、騒がしくて大変だったので、結局かわいそうだけど、置いていくことになってしまった。

何処でも美しい景色を貸切で楽しめる。人が居なさ過ぎて「大丈夫か鳥取?」

ドライブに行くのが水曜日だったから、多くのお店が休んでいたけれど、その代わり、実にいろんなところで、お弁当を食べた。同じ場所でも、ちょっと季節がずれれば、また別の楽しみがあった。何処に行っても、鳥取の私たちが選ぶドライブコースは、いつも、ほとんど貸し切りの状態で、田畠には、人っ子一人おらず、山道ですれ違う車も、ほとんどと言っていいほどいなかった。「こんなに人がいなくって、大丈夫か鳥取!」って思うくらいだったけど、その贅沢な貸し切りの空間でのドライブは、本当に最高だった。

紅葉の名所といえば、なんと言っても、佐治から辰巳峠、恩原高原のあたり

すっかり前置きが長くなったが、特によく行ったのが、辰巳峠。ここに行くまでの道々に咲く春の桜、初夏の藤、山紫陽花、タニウツギにヤマツツジ、白樺の緑、秋の紅葉、晩秋のススキ、雪解けの景色や木々の芽吹きの頃など、四季折々にそれそれにいつ行っても、本当に美しかった。雪のドライブでは、松の緑が、なぜ常盤と言って、愛でられるのかもよくわかった。そのささや、松の緑は雪の中で映えた。最初、父がそれでもまだ元気だった頃のドライブでは、家ではほとんど寝ているのに、外の景色を珍らしそうにじっと眺めては、ずっと眠ることなく起きていた。

さらに、うんと食欲が落ちてしまってからも、アベ鳥取堂のカニ寿司なら食べれると言うので、駅で駅弁を買ってからドライブに行くこともしばしばだったし、河原の道の駅で、餅米たっぷりの美味しい鯖寿司を買っていくこともあった。今となっては、父と母とドライブした楽しい日々、その時間のことを、一生の宝物だと思っている。「ありがたい」時間だった。そんなわけで、ここはどこだと、地名で説明できない場所もあるけれど、わかる範囲で、鳥取の季節ごとの名所を、時々折に触れて今度も、紹介していこうと思う。

山は日暮れが早いから、美しい時間帯を見逃さないように

ドライブの所要時間は、鳥取の市内から、往復3時間程度。お弁当を食べるのなら、4時間コースとなる。茶箱と共に、季節のお菓子を持って行って、抹茶を立てて飲むのもおすすめです。早春の頃は、ウグイスの初音も聴けます。

紅葉の楽しみとしては、葉っぱの後ろから、光の入る時間帯が何よりも美しいので、朝と言うよりは、お昼を食べるくらいの時間から出かけないと、美しい時間帯を見逃してしまうから注意。遅くとも、15時くらいには、帰途につかないと、夕方があまり遅くなると、山の林の中まで光が入らないので、美しい時間帯を見逃してしまう。山の日暮は、里よりもかなり早いことを頭に入れておく必要がある。

時間があれば、帰りは、佐治町のアストロパーク経由で、鳥取のマチュピチュを通って帰るのも素敵なドライブコース。マチュピチュの話は、またそのうちに。お楽しみに。