ちょうど2年前の桜満開の頃に亡くなった前社長でもあった、私の母が、まだ元気だった頃の話である。
「母のお棺に白無垢を入れてあげたいので、急いで白無垢を調達してもらえませんか?」
こんな連絡を受けて、仕立て上がっている白無垢をメーカーに連絡して急いで送ってもらい、3枚の白無垢が届いた。鶴と、花と、孔雀の模様だった。
早速連絡を取って、ご来店いただきました。一体、どの模様を選ばれたと思います?来られるまでに、スタッフの間でどれを選ばれるのか、想像していました。ある人は、花、ある人は、鶴では?私もなんとなく、鶴だと思っていました。実際には、選ばれたのは、孔雀の柄でした。理由を伺うと、
「母に一番似合いそうだと思ったから」
という答えが返ってきたそうです。それはそうですよね、一番似合うのを選ぶのは当然ですよね、よく考えてみれば当たり前いのこと。私だって、きっとそうすると思います。
以前この方は、お母様をお連れになって、ウエディングドレスの写真を撮影してあげようということで、ドレスを見にご来店になっていたということだった。その時は、どういうわけか、お母様はドレスを着られることがなく、お帰りになったと聞いていたが、また来られると伺っていて、そのまましばらく来られていないなあと思っていたところだったらしい。
詳しくは聞いていないが、もしかしたら、その方のお母様は結婚式の時に婚礼衣装を着ておられなくて、そのことを、お母さんがとても残念に思っておられたということを、お嬢さんは、きっと覚えておられたのかもしれない。
白無垢だけでは、向こうで着て歩くこともできないだろうからと、母と相談して、白の掛下(白無垢の中に着る衣装)と、はこせこ、懐剣などの5点セットに白い草履と綿帽子をつけてお渡しすることにした。とても喜んでおられたとあとで聞いた。
私の母は、人生無遅刻無欠勤の元気な人で、およそ病気ななるなんてことを想像したことはなかった。見つかった時はもう末期の癌で、手術も、抗癌剤治療もできずに、食事療法と、高濃度ビタミン点滴と、マイクロウエイブという温熱療法してあげられることがなかったけれど、そのおかげで、最後の最後まで、一緒に同じ部屋で眠ることができた。
八重桜の好きに人だったから、喪主花は八重桜にしてもらい、桜の模様のお棺には、その八重桜をたくさん入れてあげた。
親孝行は、いつでもできると思っているけれど、実はそうでもなくて、できるときに、いつも日常的に、しっかりと後悔のないようにするものだと、今なら思うけど、後の祭り。コロナで家族が一緒に居られるのは、本当にありがたいこと、いったい本当は何が大切だったのかを考えるための、一生のうちにそう滅多にあることではない、大切な機会なのかもしれない。